卓球レポート 水谷隼特集

対戦相手の試合映像を見る。ただし、 見終わったら卓球のことは一切考えない 前日の夜の過ごし方は? Q8 試合前夜は、ノートパソコンで翌 日の対戦相手の試合の動画を見ま す。動画サイトにアップされている、 ラリーだけに短く編集されたものをよ く見ます。試合の参考にするので、 できるだけ最新のものを見るように しています。その動画を見ながら、 大まかな戦術を立ててメモをします が、その動画を見終わったら、それ 以上は卓球のことは考えません。 たまに、相手の調子がいいときの 動画を見てしまうと、どうやったら勝 てるんだろうなどと考えてしまうことが ありますが、考え始めるとどんどんそ れが膨らんでいって、眠れなくなった り、食欲がなくなったりしてしまいま す。試合動画を見たら、あとは普通 にいつも通り、テレビを見たり、ゲー ムをしたりして過ごすようにしていま す。次の日がいつもと同じ1日だと 思って過ごすのが1番ですね。 全日本の決勝の前日の夜の心境は、初優勝の時と今 では随分変わってきています。 初優勝した時は、緊張よりも、最終日に試合ができると いうことに興奮していました。その頃は、たくさんの観客の 前で試合ができることが少なかったので、それがとてもうれ しかったし、最年少優勝もかかっていたので、絶対に達成 してやるという気持ちで した。 それ以降は、4連覇、 5連覇を達成したくらい の時が精神的には1番 苦しかったですね。記録 にもこだわっていました し、勝たなければというプレッシャーが強くて、次の日の試 合のことを考えて緊張で夜も寝られなかったり、とてもつら い時期でした。 変わったのが平成25年度からです。その頃から心理学 の講義を聴いたり、本を読んだり、岡澤祥訓先生( ナショ ナルチームのメンタルサポート担当・当時)と話をしていろ いろ教えてもらうようになってから、精神的に楽になりまし た。必要以上に卓球のことを考えて自分を追い詰めるの はやめようと思うようになったんです。 リオ五輪の時は「 チャンスは今回しかないから絶対に勝 つんだ」という気持ちと「落ち着いて自分のプレーをしよう」 という気持ちのバランスをうまく取ることができたので、メダ ルという結果につなげることができたんだと思います。 編集部注 最近では、対戦相手の動画を見ることは多くのトップ選手が試 合前のルーティンに取り入れている。対戦相手の動画を入手し にくい一般の選手は取り入れにくいルーティンかもしれないが、 対戦相手が分かってる場合、シミュレーションは大事な準備の1 つだ。 動画を見終わったら卓球のことは考えないというやり方は、全日 本9回の優勝を重ねた水谷がたどり着いた境地なのだろう。試 合に向かうにあたり、自らを鼓舞するのか、それとも落ち着かせる のか、読者の皆さんも、それぞれのやり方を模索してみてほしい。 前日の寝る前 ラケットやウエアの準備は? Q9 ラケットやウエア、シューズ、ゼッケン、 タオルなど試合に必要なものは前日の 夜のうちにバッグに入れておくようにし ます。普通ですね。 編集部注 取材当日、水谷には試合に向かうのと同じ準備をしてきてほしいとお願いしていたが、このときの準備 は、バタフライ卓球道場に来る直前まで行われなかったという。さらに、家を出てから忘れ物に気づい て1度家に戻ったという。このエピソードに、水谷の試合にかける意気込みと、この取材に対する思い の違いを思い知らされた。 精神的に楽になったという平成25年度全日本選手権大会。 重圧から逃れた水谷は再び連覇をスタートさせた 決勝前夜秘話 013 December

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